エンジニアが映画評論家になるブログ

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エンジニアをしている普通のサラリーマンが、映画評論家になってどや顔で映画評論するまでの軌跡を綴るブログです

漫画版と映画版で真逆の結末。だが、それがいい 映画感想「ヒミズ」

365日映画カレンダー 10月12日 「ヒミズ」 

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このカットは素晴らしい。泥まみれになった主人公、それに寄り添う少女。物語のイメージを端的に表現出来ていると思う

[:contents] 

おすすめ度

4:どれだけ絶望的な状況であっても、誰だってやり直せる。そう思わせてくれる映画

【おすすめ度は1が低評価。5が高評価。あくまでも独断と偏見による評価です】

 

【ざっくり感想】

原作は漫画「行け!稲中卓球部」でおなじみの古谷実による「ヒミズ」です。タイトルにもなっている「ヒミズ」の意味ですが、「日見ず」というモグラの名前が由来になっているようです。

 

そのモグラは山の中で暮らしていて、ほとんど日光にあたることがないことから「日見ず」という名前がつけられているのだとか。そういう意味では今作の主人公はまさに「日見ず」で、光をしることなく暗い森をずっとさまい続けるかのような人生を送っています。シンプルなタイトルだけど深い意味が込められていていい感じ。

 

さて「稲中」のイメージがかなり強い古谷実ですが、今作「ヒミズ」くらいから漫画の路線が大幅に変更されて今作以降はかなり暗い話が多くなった印象です。だいたいヤクザが出てきたり、人が死んでしまうような事件に主人公が巻き込まれるパターンが多いような気がする。

 

漫画版の「ヒミズ」を読みましたけど、ラストはめちゃくちゃ鬱展開だったので、映画版はどんな感じなのか楽しみにして観ましたけど、映画版のラストはすごくよかったですねー。

 

ちなみに映画公開付近で東日本大震災が発生したこともあり、脚本が大幅に改変されたそうです。そのことを最初知ったときは正直、「震災を絡めるのはどうかなー」と思いました。

 

なんとなくあざとい、というか・・けっきょくのところ震災をダシにして話題性が欲しいだけなんじゃないかなーと邪推してしまっていて、実際に映画が公開されたときはかなり批判も多かったみたいですね。

 

ただ、映画に込められたメッセージ性はとても強くて、被災した人のみならず「自分だけの力だけではどうしようもない状況」に苦しむ人たちにむけたエールが込められていたように思えます。

 

概要

 youtu.be

感想

「普通」であることが、どれほど幸福であるか考えさせられる

今作に登場するキャラクターのほとんどが「普通」じゃない状況に陥っています。

まあ「普通」ってなんなの?っていう話になってしまいますが

 

主人公の住田は小さな貸しボート屋で母とふたりで暮らしているわけですが、母はある日突然いなくなり、そして不定期に彼のもとをおとずれる父親はどうしようもない人間で、暴力をふるったり「おまえなんか死んでくれればよかったのに」と吐き捨てます。住田はそんな父親に対し「俺はおまえみたいなクズには絶対にならない!」と誓います。

 

また主人公の理解者である茶沢さんは親からネグレクト受けており、住田同様に両親から必要とされていません。ある日茶沢さんが家に帰ると、両親の手によって首つり台がつくられていてそれによって自殺するように茶沢さんにすすめたりします。ある意味、住田よりもきっつい家庭環境かも・・

 

とまあこんな感じで登場人物たちをとりまく環境は最悪で、普通ではないです。

僕たちが普段生きているなかで

「あー退屈だなー」

とか

「なんか普通じゃないこと起きないかなー」

 

なんてことをついこぼしてしまうわけですで、今作の主人公たちはまさにそんな「普通」の生き方を切望しています。

 

そんな普通を求める登場人物たちの姿があまりにも切実で、まっすぐすぎて・・映画をみていて僕は自分が手にしている「普通」をもっと大切にしなければいけないなと思いました。

 

東日本大震災がおきたときも「とんでもないことが起きている」という認識はもちろんありましたが、それでもやはり当事者ではない僕にとっては「どこか遠い場所で起きている出来事」だったと思います。

被災した人たちの気持ちに寄り添うなんてことは簡単に口にするべきことではないと思います。

しかし、この世界では想像もできないほど苦しい状況に陥っている人たちがいて、そんな状況に対して必死に立ち向かっているんだ、ということくらいはせめて胸にとどめておきたいと思いました。

そう思うことで、自分が当たり前のように手にしている「普通」を、もっと大切にできるような気がするからです。

 

ラストは本当によかった

映画の感想を書くうえで「ラストがよかったぜ!」ってやってはいけないような気がするが、本当に良かったので・・許してください。

 

僕は漫画は既読済みだったので途中までは

 

「うわー漫画通りのラストかー。めっちゃバッドエンドやん・・」

 

と思っていました。とはいえ僕自身バッドエンドも好きなので、どれほど絶望的な感じで終わらせてくれるのだろうと思っていたわけですが、今作のラストはバッドエンドではなく、非常に前向きで希望に満ちあふれたラストになっていました。

 

しかも主人公たちは15歳の中学生ということもあってもか、瑞々しくて、本当にさわやかなラストに仕上がっていて例えるならポカリスエットを飲んだあとのようなスッキリとした気持ちになります。30歳のおじさんにはポカリスエットはあまりにもさわやかすぎて、涙がでそうになりました。

 

 

さて、映画版は漫画版のラスト容を180度変えてしまったわけですがその改変はすごくよかったです。

 

主人公である住田の理解者である茶沢さんがラストに

 

住田! 頑張れ!

 

と泣きながら叫びます。彼女は何度も何度も住田にエールを送り、それを横で聞いたいた住田も同じように

 

住田!頑張れ!

 

と、普通ではなくなってしまった自分自身を鼓舞するように何度も何度も叫びます

 

もう・・このシーンは青春全快、かつ前向きなイメージで本当によかったです。

 

「住田!頑張れ!」と叫ぶシーンは、映画を見ているすべての人たちに向けてのエールだと僕は思いました。

ブログの冒頭でも触れたと思いますけど、この当時の日本は東日本大震災によってもたらされた悲しみに包まれていました。本当に想像もつかないくらい多くの人たちが悲しみにくれていて、絶望的な気持ちになっていたと思います。

そんな人たちに対して今作は

頑張れ

大丈夫だから

きっとやりなおせる

と、主人公ふたりを通してエールを送っていて、住田の暗い人生に一筋の光が差し込むようなラストの展開は、映画を観る人たちを前向きな気持ちに押し上げてくれるのではないでしょうか。

 

主演をつとめた二人の演技もよかったです。

特に茶沢さんを演じた二階堂ふみの表情、セリフ回しは非常に印象的で、茶沢さんの

 

素朴でちょっと変わり者だけど、芯が強くて優しい少女

 

っていうキャラクターが上手に表現できていたと思います。

 

個人的には二階堂ふみ宮崎あおいに通じる透明感があると思う。

え、誰も共感してくれない?(笑)

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ぜったい似てるって・・(笑)

小話

・映画→漫画

・漫画→映画

 

どっちでもいいですけど、要するに

「漫画も映画も両方みてほしい」

です。漫画は巻数がそれほど多くないので数時間で読めると思うし、絵もシンプルだから読みやすいはず。

 

推薦する理由としてはやっぱりラストの展開が全く別だから、ですかねー。

 

特に漫画の方は誇張でもなく本当に救いようのないバッドエンドなので是非みてもらいたいです。

 

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漫画の方はひたすら暗い展開が続くけど・・

 

ブログ作成時間:30分