愛と夢を描いた傑作ミュージカル映画 「ラ・ラ・ランド」
「ダンスウィズミー!」が最近公開されましたが、ミュージカル映画はテンション上げ上げの楽しい気持ちで作品を鑑賞できていいですよね。
さて、今回 僕が観た映画は話題の傑作ミュージカル映画です。
ラ・ラ・ランド(2016年)
ジャンル:ロマンティック・ミュージカル
監督:デミアン・チャゼル
概要
舞台はロサンゼルス。ミアはカフェで働きながら女優を目指していたが、オーディションの結果は散々でもどかしい日々を送っていた。そんなある日、たまたま立ち寄った店で、男性の弾くピアノ演奏に魅了されてしまう。
ピアノを弾くその男性はセブ(セバスチャン)といい、彼はいつか自分の店をもち、そこでジャズを思う存分演奏するという夢があった。
二人はやがて恋におち、お互いの夢に対して刺激をもたらすのだった。しかしセブが店の資金作りのために加入したバンドが成功し、二人の心はすれ違いはじめるのだった。
感想(ネタバレなし)
どういう人に観て欲しいか
・ミュージカル映画が好きな人
・起伏に富んだストーリー展開が好きな人
・映画において音響面や撮影シーンが芸術的であるかに重きを置いている人
・恋をしたい人
・「ダンスウィズミー!」が大丈夫な人。物足りなかった人
制作に至るまでの過程そのものが物語
実は今作の脚本・監督をつとめたデミアン・チャゼル(30代で若い!)は「ラ・ラ・ランド」の脚本を数年前から書いていたのですが、予算的なこともありとても映画にできるような状況ではなかったそうです。
というのも、有名な曲ではなくオリジナルソングを使用した現代ミュージカルという構成を監督はその当時から練っており、それではリスクが高いということで出資してくれるスタジオが見つからず、何年も映画が制作できなかったそうです。
しかし諦めきれなかったチャゼル監督はまずリスクが少なく出資のめどが立ちそうな作品をつくることに決めて(「セッション」という映画です)、なんとその作品が第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされることとなるのです。
こうして結果を残したチャゼル監督は無事に出資、配給先をみつけ本作「ラ・ラ・ランド」を撮影し、第89回アカデミー賞でタイタニックに並ぶ史上最多の14部門にノミネートされてしまうというのだから驚きです。
まさに作中のストーリーのように「諦めず夢を追えば、いつか叶う」ということを監督自らが証明していて、そんな不遇の状況でも諦めなかった監督だからこそ「ラ・ラ・ランド」は強いメッセージ性をもった完成度の高い作品として仕上がっているのだと思います。
ところで、アカデミー賞で「主演女優賞」を「受賞」した(ノミネートじゃなくて受賞だからすごい!)エミリー・エマ・ストーンは幼少期のころに「レ・ミゼラブル」という映画をみたことがきっかけでミュージカルに興味をもち「突然歌いだすのがいつも夢だった」と語っていたそうです。
女優をめざすことにしたエミリー・エマ・ストーンですが、はじめのうちはオーディションに落ちまくったらしく、そういったエピソードもあって今作のヒロインには感情移入しやすかったのでしょう。
実際に作中でオーディションに落ちて絶望するシーンがあるのですが、エミリー・エマ・ストーンの演技はすばらしかったです。(目にうっすらと涙をうかべ、悔しいけどなるべく顔にださないようにしている姿にはグッときた)
感想(ネタバレあり)
ストーリーの構成がシンプルかつ起伏があってよかった
僕は映画の構成上、以下①、②のような作品が好きです
- 起承転結がはっきりとしている
- 特に「起」から「転」までの起伏が激しい
まず①については映画である以上、というか物語である以上かならず起承転結があるのですが、僕は映画をみながら作品の経過時間を確認して「そろそろ起→承に移り変わるころかな」なんてことを考えています。
評価が高い作品に共通していえること、それは「起承転結」が決まったタイミングでしっかりと遷移する、ということです。特に名作と呼ばれるような映画のほとんどでそのような作りになっているので、一度確認してみるといいかもしれません。
ちなみに作品の時間はだいたい2時間ですが、120分を4で割った時間、つまり30分ごとに起→承と展開が遷移していくと思ってもらえればいいです。
【展開のイメージ図】
冒頭30分~60分 ~90分 ~120分
起 | 承 | 転 | 結
開始30分(起) 「作中の世界観、登場人物の説明。そして登場人物が抱える葛藤」が描写され・・
開始60分(承と転の中点・・ミッドポイントと呼ばれている) 「物語の展開が大きく変わるような出来事」が起こり・・
開始90分(結) 上記で起こった「出来事」が解決へと向かった結果・・
ラスト10分(ラスト) 「出来事」が解決した後の登場人物たちの姿が描かれる
先に「結」が来たりするパターンもありますが、どの映画もまずこの構成であり、例えるならば、人が映画を鑑賞する上でもっとも気持ちよく観ることができる「黄金の時間配分」とも言えるでしょう。
今作は
「冬」・・プロローグ
「春」・・起
「夏」・・承
「秋」・・転
「5年後の冬」・・結
という分かりやすい構成になっていて、かつ物語の展開に起伏に富んでいた点が特によかったです。
ラストのミュージカルシーンは涙する
いやーこれはよかった。
もうネタバレありきでべらべら語ってしまいますが
どうせ「ハッピーエンドで二人は結ばれる」のだろう
と思っているといきなりエマは別の男性と結婚し、ふたりの間にはすでに子どもができていることが分かります。
その時点で
「え?うそでしょ?なにがあった?」
と観ている人は思うわけですが、詳しく言及されないまま、エマは夫とディナーに向かうシーンになります。
なんとなく入った店だったのですが、それがなんとセバスチャンの店だったのです。店の名前とロゴは、かつてエマがセバスチャンのために考えたものでした。
やがてお互いに気付く二人。
特にセバスチャンがステージ上でエマに気付き驚きながらも「Seb'sへようこそ・・」とマイクにむかってささやくシーンは最高でした。(Seb'sというのは店の名前でエマが決めたもの。最初セバスチャンはくそださい店名を考えていてそのことでエマとケンカした)
そのあとセバスチャンのピアノ演奏によりミュージカルパートが始まるわけですが、そこで描かれるのは
5年間になにがあったのか
ということが印象的な映像と音楽で表現されています。(このシーンは印象的で美しく、すばらしいシーンだった!絶対に観てほしい)
さらに
「もし」二人が別れなかったとしたらどうなっていたか
というシーンが流れたあと、ミュージカルパートが終わりエマは店を後にします。
店を出るときに、セバスチャンの方を振り向くエマ。
ふたりはみつめあい、最後はちいさくほほえみ映画は終わります。
二人は結局結ばれなかったですが、ラストシーンの二人の表情からバッドエンドではないことが分かります。
しかし「ほんの少しなにかが違っていれば、二人は結ばれていたかもしれないのに」と考えると切ない気持ちになってしまいますね。
まとめ
ストーリー展開、音楽、美術、俳優たちの演技、どれをとってもすばらしい名作でした。ふたりが結ばれないという展開は個人的にはショッキングで、しかしその展開こそがこの作品にいい余韻を残しているのだと思います。