賛否両論、さまざまな解釈ができる映画は良作だと思う 「聲の形」
365日映画カレンダー 9月10日 「聲の形」
たまにはアニメーションを観ようということで前から気になっていた
「聲の形」
を観ることにしました。
原作は大今良時(講談社コミックス)の「聲の形」であり、制作会社は「京都アニメーション」です。
原作は未読でしたが感想としては
映像、音楽、ストーリー、登場人物、このどれもが素晴らしかったです。
まだ観ていない人は是非! 以下、ネタバレあります
概要
小学6年生の石田将也はガキ大将で、同じクラスの友人といつもふざけあって遊んでいた。
そんなある日、将也のクラスに転校生の女の子がやってくる。
女の子の名前は西宮硝子(にしみやしょうこ)。彼女は先天性の聴覚障がいをもっていた。
そんな硝子を将也は毎日のようにからかってあそんでいたが、いつの間にかいじめっ子だった将也がクラス内でいじめの対象になっていたのだった。
ほどなくして別々の学校へ進学する二人だったが、5年の時が経ち、高校生となった将也は硝子のもとをおとずれる。
設定、気になったことなど
タイトルにもなっている「聲」という字について
「聲」はふつうに読み方としては「こえ」と読むわけですが、普段使わない漢字であるためどういった意味が込められているのか気になったのでネットで検索してみたところ原作者である大今良時さんのインタビュー記事を見つけました。
以下は引用文です。
この字は“声”“耳”そして手の動作をあらわす“殳”から成り立っていると同時に、思いを伝える手段が分裂しているとも感じました。1つだけでは思いは伝わらないというのが作品らしいと思ったのが決め手です。
なるほど。
しかし「聲」なんて漢字があること自体知らなかったなぁ。ちなみに旧字らしいです。「声」を意味する文字のなかに「声」「耳」「手を意味する字」が含まれているのは非常に面白いと思いました。
作中の舞台について
岐阜が舞台になっているようです。「君の名は。」も作中の舞台のひとつが岐阜だったし、意外とアツイ地域なのかもしれませんね。
作画、音楽について
特に作画に関してはすばらしかったです。流れる水とか光とか、自然の美しさが見事に表現できていたように思います。
中でも僕が特にすばらしいと思ったのは、作中で将也たちが橋の上から鯉にエサをやるシーンがあるのですが、水の透明感や水草の緑、差し込む光があまりにも綺麗すぎてそのシーンは何回も観てしまいました。高校生の瑞々しい青春時代を象徴しているかのようで
「ああ、高校生にもどりてぇなー」
なんて思いました。
音楽に関してもピアノの伴奏をベースにした曲が多く、作中の雰囲気にとてもあっていたように思います。
個人的にはキャッチコピーにあまり共感できない
キャッチコピーは
「君に生きるのを手伝ってほしい」
だそうです。うーん、これにはあまり共感できなかったですね。
ネタバレになってしまいますが、作中で主人公たちは自殺しようとします。
そういったシーンがあることを加味して上記のようなキャッチコピーになったんだと思いますが、僕的には今作のテーマはシンプルに
「自分の気持ちをしっかり表現して、相手に伝えるのはむずかしい」
ってことだと思うんですよね。
確かに登場人物たちは悩みまくって、「自分なんて死んでしまった方がいいんだ」とすら考えるわけですが、それ自体が切実な悩みというよりかは自分の気持ちを表現できない、相手の気持ちが分からない、という葛藤が根底にあると想うんです。
そういう意味では公式サイトにあった
「伝えたい"こえ"がある。聞きたい"こえ"がある」
というフレーズのほうがしっくりくるかな。
感想 危ういバランスのもとに成り立っているアニメ
障がい、いじめ、自殺、かなり"攻めた"設定
原作「聲の形」は漫画賞を受賞して、さあ連載するぞ・・・とはならず、編集者の判断で一時連載が見送りになったそうです。
その理由として、作中で障がい者に対して差別的な発言、漫画を見る人に誤解を与えかねない描写があったからです。
たしかに冒頭のいじめのシーンは正直
「嫌な気持ちになりました」
硝子が耳につけている補聴器をうばって捨てたり、また補聴器を無理矢理うばいとるときにケガをさせてしまったりと、イジメの描写はかなりハードです。
しかも硝子は先天性の難聴であるためまともにしゃべることができないわけですが、そのへんの細かいディティールも声優の人たちはしっかりと再現してしまっているので・・・・なんというか、リアルすぎるんですよね。いろんな意味で。アニメなんですけど残酷な部分は現実的に作られています。
あと実は僕、現在はエンジニアとして働いていますが前職は教師をしていたので、将也のクラス担任のあまりのクソさに映画を観ながら
「ぶっ飛ばしてやりたい」
という衝動にかられました。
他にも観ていて「今のシーンって残酷だなー」って思うシーンはたくさんあって、印象的だったのは硝子の妹である結絃が死んだ昆虫の写真ばかりを撮って集めているシーンですかね。
そのシーンって、いつか姉である硝子が自殺することを暗に示している描写だと思うんです。
写真を撮るという行為は、例えるなら自分の心の内面をフィルタに映し出す作業です。つまり結絃の心の内面には姉である「硝子の死」がはっきりと見えていて、それに怯えて生活する結絃の気持ちを考えると非常に悲しい気持ちになります。
挑戦的な描写をたくさん盛り込んでいるので今作の評価は賛否両論です。(賛成意見が多いように感じるが)しかし、このように様々な意見がでるということ自体、良作であることの証明であるように思います。
まとめ
伝えるのが難しい、複雑な想いがさまざまな "形" で描写されている。
今作の魅力は、登場人物のひとりひとりにちゃんと焦点があてられていて、みんなそれぞれが悩みを抱えていてすごく人間らしいんですよね。
僕が特に気にいったキャラは、硝子の妹である結絃です。(お姉ちゃんには全然似ていない・・・・)
結絃は姉である硝子のことを考えるあまり、自分のことがついおろそかになってしまいます。彼女はおろらく自分のことで精一杯なんですけど、大切な姉のためにたくさんのことを我慢して、なるべく明るく振る舞います。
そんな彼女も抱えている不安や葛藤を爆発させるシーンがあって、周りの人たちに気付かれないように人知れず泣くシーンがすごく印象的でした。
ちなみに原作のシーンでは下記画像の場所がモデルになっているらしいです。
結絃以外にも「この登場人物たちは普段なにを考えているのか」知りたくなるような魅力的なキャラクターばかりで、彼、彼女たちの悩みは作中にていろんな形で描写されていますから
一回目より二回目、観れば観るほど新たな発見ができるすばらしい映画だと思います。
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