エンジニアが映画評論家になるブログ

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エンジニアをしている普通のサラリーマンが、映画評論家になってどや顔で映画評論するまでの軌跡を綴るブログです

じゃあ一体どうすれば映画「君は月夜に輝く」がマシになったのか、真面目に考えてみた

365日映画カレンダー 9月23日 「君は月夜に光り輝く

 

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「光り輝く」というのが比喩でもなんでもなくて本当に輝くというのだから驚き

youtu.be

僕はヒロインの女の子が病気などで死んでしまう、いわゆる「ヒロイン病死系」(こんなジャンルはないですけど勝手につくってみました)の映画が大好きです。

 

一昔前なら「世界の中心で、愛をさけぶ」、最近だと「君の膵臓を食べたい」などが類似したジャンルの作品になると思いますが、結末は分かっていてもラストの展開にはつい涙してしまいますよね。

 

さて、今回僕が観た映画「君は月夜に光り輝く」ですが、どうやらレビューを見る限りではあまり評価が高くなさそうです。

 

というか、かなり評価が低いです

 

そんなわけで今回は映画感想というよりは

 

作品のどこがダメで、どうすべきだったか」 

 

を勝手に考えていきたいと思います。

 

 

概要

発光病という不治の病に侵された女子高生、渡良瀬まみずが残り少ない人生においてやりのこしたことを同級生の岡田卓也に代行してもらうことで互いに心を通わせてゆく。

感想

「ヒロイン病死系」の王道パターンを守れ

「ヒロイン病死系」王道パターンとはなにか?

 

実は人の心をうつ映画にはある規則性が存在し、「ヒロイン病死系」であってもそれは例外ではありません。

 

そういった規則性を僕は「王道パターン」と表現しようと思いますが、王道パターンを考える上で映画「世界の中心で、愛をさけぶ」(以下、セカチュー)はいい教科書になるでしょう。

まず物語の展開をざっとまとめたうえで、「君は月夜に輝く」の問題点について考えていきたいと思います。

 

*********

 

王道パターンな展開と設定 例「世界の中心で、愛をさけぶ

 

①現在パート(悩む主人公) 

・死んでしまったヒロインを忘れることができない主人公が過去を回想する。

(ちなみにこのとき、手紙とかカセットテープとか、なんらかのアイテムをきっかけにして回想する)

 

・主人公は現在パートで何らかの悩みを持っている。

 

②過去パート(出会い)

・さえない(←ここ重要)主人公は、やたら明るい(←ここ重要)ヒロインと出会う。

 

・ヒロインは主人公に初期段階から好意を持っている。

 

・始め主人公はヒロインを意識していないが、何かをきっかけにして仲良くなる

セカチューではラジオ番組にハガキを投稿し、主人公とヒロインとで、どちらかが先に自分が書いたハガキが読まれるかを競った。そのとき主人公は「自分の同級生が白血病になってしまい、文化祭でロミオとジュリエットのジュリエットを演じるはずだったが、それができなくなってしまった」と嘘の内容を書いた。ここで不吉すぎる伏線をはっている点も王道パターン)

 

③過去パート(付き合ってハッピー)

・二人でどこかに出かける(できるだけ綺麗で、幻想的な場所へ)

 

・これからもずっと一緒にいよう、と「絶対にヒロインが死ぬな」って思うような美しい誓いを立てる。

 

④過去パート(病気発症)

・ヒロインが病気になる(セカチュー白血病

 

・主人公は基本的にヒロインの両親から嫌われる(「もう来ないでくれ!」みたいなことを言われて落ち込む)

 

・どんどん病が進行してゆくヒロイン。ヒロインの願いを叶えるために主人公は無理矢理ヒロインを連れ出す。

 

⑤過去パート(ヒロインの最後)

・しかしヒロインは死んでしまう

 

・主人公は悲しみにくれる。そしてその悲しみを乗り越えることができないまま時が経つ

 

⑥現在パート(主人公の精神的な成長)

・ヒロインを思い出すアイテム(手紙とか、カセットテープなど)や現在パートの登場人物の言葉によって主人公はヒロインを失った悲しみを乗り越える。

 

*********

 

これぞ王道って感じですねー。

 

もっと細かくみていくと感動するための仕掛けがさらに見えてくるわけですが、セカチューの大まかな構成をみるだけで「ヒロイン病死系」の映画には「何が必要であるか」がはっきりと見えてきますね。

 

さあそれでは王道パターンを参考にしつつ、「君は月夜に光り輝く」の問題点と、どうすべきだったのかを考えてみましょう。

 

現在パートと過去パートの間は数十年の時が経っていた方がいい

まずセカチューのなにがいいかって、現在パートの主人公(大沢たかお)が高校生時代の自分(森山未來)を思い返しているっていう構成がいいですよね。

 

なぜかと言うと

 

何年もヒロインを忘れることができない主人公」 の一途さは心に響くし、年配の方々からすると「ああ、俺も高校時代にすっげぇ好きな子がいたよなぁ・・」なんていう具合に感情移入できる点も素晴らしいです。

 

さて、今作「君は月夜に光り輝く」もヒロインはすでに死んでしまったという現在パートからはじまるのですが・・・

ヒロインが死んでからそれほど時間が経っていない

 

という設定が王道パターンからはずれています

 

これはダメです。ダメダメです。

ヒロインの死というイベントは、ある程度時間が経ってこそ美しく、はかなく思えるのです。

 

しかも今作の主人公は謎にモテる設定で、バイト先(メイドカフェ)のかわいい先輩から明確な好意を抱かれていることもあって、映画を観ている人からすると「こいつ、どうせすぐに次の女を見つけて幸せになるんだろぉ!」なんて思われてしまいかねません。

しかもそんなキャラをだしておいて、作中の物語には一切影響を与えないという、いるのかいらないような不要キャラが割りとでてくるのも今作のまずいところ。

 

というわけで現在パートと過去パートには最低でも10年くらいの時差を与えましょう。

ちなみに「君の膵臓を食べたい」もこの「王道パターン」を守っていた(パクって)はず。

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セカチューよろしく、ヒロインの声を聞いて物思いにふける主人公

主人公がクールはだめ!

君は月夜に光り輝く」の主人公はクールすぎます。

 

というか・・・

 

元気がなくて、とにかくずっと暗い。

 

本当にまったく笑わないし、「君が死ぬの?」と聞きたくなります。

 

作中では主人公サイドもなんらかのトラウマをもっていることは描かれているのですが、(原作だとそのへんの説明もあるが、映画ではほとんど説明なし!)それにしてもとにかく主人公が暗いです。

 

30代のくたびれたおっさんの主人公なら哀愁があってそれでもいいと思いますが、高校生なのでもうすこし明るくしたほうがいいでしょう。

 

しかし「王道パターン」としてはさえない主人公が絶対条件なので、間違ってもクラスの人気者というくらいの明るさではダメです。ほどよく暗く、ほどよく明るいくらいの性格の主人公がベストと想われます。

 

あと理想的な主人公としては「ヒロインの死」に対して泣き叫んだりするシーンがあると最高です。

 

セカチューでは病気で倒れるヒロインを抱きかかえて主人公が

 

助けてください!誰か、助けてください!

 

と叫ぶシーンがあるのですが、普段はさえない主人公がヒロインのために声をはりあげるのはギャップがあって盛り上がるし、なにより切実な想いがこもっているのが伝わってきます。

 

主人公がさえないけど、ヒロインのためにやるときはやる、そんなキャラクターが「王道パターン」なのです。

 

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ぜんぜん笑えない逆シーン。もちろん主人公もクスリとも笑わない

実は脇役こそが重要

主人公とヒロインをより魅力にするためには「脇役」が非常に大事だと想うんですよね。

 

主人公とヒロインが仲直りするきっかけをつくったり、作中のテーマとなるような「気付き」をぽろっと言ったり・・・と「脇役」は物語に深みを与えるために必要不可欠な存在です。

 

さらに「ヒロイン病死系」の映画では主演俳優がどうしても若くなってしまいますので、脇役はなるべく「説得力のある」演技ができるベテラン俳優を起用すべきだと想います。

 

君は月夜に光り輝く」に関していえば脇役にもっと出番を与えたり、作品のテーマとなるようなセリフを言わせるべきでしたね。

一応、父親や母親、看護師、主人公の友達なんかがそれっぽい役割を担っているのですが、とにかく脇役キャラたちの影がうすすぎて作品にほとんど影響を与えていないのが非常に残念です。

 

ところで、僕は思わず笑ってしまったシーンがあって

病気になったヒロインの父親が主人公にむかって

 

父:「普通に元気に育って、誰かと結婚して、『娘さんをください』なんて言われるんだろうと思っていたよ・・・」

 

主人公「は、はあ」(若干引いている)

 

父「娘さんをください、って言ってみてくれ」

 

主人公「む、娘さんをください」

 

父「なぐっていいか?」

 

なんでだよ!(笑)

意味わかんねーよ・・・・自分で言わせといて殴っていいか、って・・

 

とまあこんな感じで重要な役割を担うべき脇役がトンチンカンなことを言うので作品がまったく盛り上がりません。

 

主人公とヒロインの二人だけではたどり着けないような価値観、考え方

を提供し、作品に深みを持たせるのが脇役の仕事です。もうすこし脇役の登場人物たちにもスポットライトを当ててみてもよかったと思います。

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全く存在感のない脇役(主人公の友人)

ヒロインについて

まあヒロインについては割と「王道パターン」を踏襲できていたかなという感じです。

ヒロインの王道パターンとは、すなわち

 

・とにかく清潔感がある

・やたら前向き(特に病気の前兆シーンでは「なんでもないよっ!」と、気丈にふるまう)

・主人公にだけは弱いところをみせる

両親想い

・ロマンチック

 

といったところでしょうか。「君は月夜に輝く」のヒロインも上記の「王道パターン」をしっかりと守れていたと思います。

 

ただ難点があるとすれば

 

ヒロインが死ぬ直前までめちゃくちゃ元気

 

というのは王道からはずれているといえるかもしれません。

セカチューでは白血病にかかったヒロインが映画がすすむにつれてどんどん弱っていきます。明るかったヒロインが弱っていく姿こそがある意味「見所」なのに、最初から最後まで元気であっては意味がありません。

 

さらに今回ヒロインは「発光病」という不治の病にかかりますが、きっと小説だった読者は美しい映像を自分の頭の想像することができるでしょう。

 

しかし実際に映像化してしまうとかなりチープな印象になってしまったという印象です。

 

とりあえずぼやーっとヒロインが光って

 

ほらみて、きれいでしょ?さ、感動してよ!

 

という制作陣の浅慮がにじみでていて、こちらとしても意地でも感動したくないという気持ちになってしまいます。

 

「発光病」が作品になにか強いメッセージ性を持たせているとはとても思えないし、普通に実際にある病気でよかったと思います。

 

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不治の病にかかっているとは思えないくらい元気なヒロイン。主人公と会うようになって容体は急変する

 

ブログ作成時間:1時間(笑)

いままでで一番作成するのに時間がかかった。