展開は見え見え!? 盲導犬なしでも視覚障がい者が猛ダッシュ 映画感想「見えない目撃者」
365日映画カレンダー 9月22日
今回僕が観てきた映画は9月20日に公開されたばかりの「見えない目撃者」です。
映画の感想としては、緊張感もあったしグロテスクな描写もかなり多めで僕が好きな要素は割とつまっていたはずなんですけど「それほど印象に残らない普通の映画」、が正直な感想です。
映画の評価を点数化するのってあまり好きじゃないけどあえてするなら「61点」といった感じですかね。
この映画をなにかに例えるなら、真面目に勉強して、教科書とか一生懸命読んでいるけどテストではあまり点数が伸びない優等生、です(笑)。
僕が61点と評価する理由は感想欄で詳しく書いていきたいと思います。
概要
警察学校を卒業する夜、浜中なつめ(吉岡里帆)は運転不注意により同乗していた弟を死なせてしまう。またそのときの事故の影響で視力をうしなったなつめは警察を退職し、そして人生に絶望する。
弟の死から3年が経ったある日、なつめは車の接触事故に遭遇する。車にのっていたのは猟奇事件の犯人だった。
なつめは事故の「目撃者」として警察に証言するもなかなか警察に信じてもらえず、もう一人の事件の目撃者である春馬(高杉真宙)と連絡を取り合い独自に捜査をすすめてゆく。
**ネタバレありです**
感想
映画とは、調理するが如し
映画や小説って「料理」に似ていると思うんですよね。
まずテーブルの上に「じゃがいも」「にんじん」「玉ねぎ」がのったところを想像してみてください。
別にのっている食材はなんでもいいのですが、普段あまり料理を作らない僕にはナイスな食材が思い浮かびませんでした。
これらの素材は
じゃがいも・・・ストーリー
にんじん・・・・キャラクター
玉ねぎ・・・・・世界観
としましょう。
「じゃがいも」と一口に言ってもこの世界に全く同じじゃがいもはふたつと存在しないように、映画におけるストーリーも似たものはあってもまったく同じものはありえません。
また同じような素材をつかっていても調理する人によってまったく異なった味付けの料理ができるように、映画においてもこれらの要素をどのように生かすかによって作品の味(=完成度)は大きく変わります。
映画を観ている僕たちは「調理過程」をすぐ横でみているといったイメージでしょうか。こらからどんな料理ができるのかな、なんて想像しながら映画を観ているわけです。
それではさっそく、今作の素材をひとつひとつみていきましょう。
じゃがいも(ストーリー)
良かったです。
「目の見えない目撃者」が犯人を追うというストーリーはユニークで素直に評価できますね。
「見えない」という言葉と「目撃者」が矛盾している点は面白いと思うし、見えないのにどうやって事件を解決してゆくのかも気になります。
今作は韓国映画「ブラインド」のリメイク作になるわけですが、邦題タイトル「見えない目撃者」はよく考えられていて、これ以外にないというくらい秀逸なタイトルなのではないでしょうか。
目撃者という単語からも何か事件が起きたんだなっていうことが一発で想像できるし、目撃者と言っているのに「見えない」って、なんだよ、というモヤモヤが生まれて映画を観たくなります。
僕が今作を観ることを決めたのも、単純に「タイトルからなんとなくおもしろそうだな」と思ったからです。
にんじん(キャラクター)
せっかくストーリーがよかったのにキャラクターはかなり残念です。なにが残念かというと、ストーリーを円滑に進めるためにキャラクター設定がされているような気がしてしょうがないんですよね。
もうすこしバランスよくできなかったのだろうか。
特に残念なのは主人公です。
今作において「見えない目撃者」である主人公:浜中なつめ(吉岡里帆)は元警察官という設定です。
2時間という短い時間内で物語をなるべく自然に進める必要があるので、主人公が元警察官という設定はある程度目をつむるにしても、設定においてやりすぎな部分があるのでツッコミをいれたいと思います。
ツッコミ①主人公がハイスペック
映画冒頭では吉岡里帆が射撃訓練をするシーンから始まります。的にめがけて発砲するわけですが、めちゃくちゃ命中精度が高いんですよね・・・。
次のシーンでは道着姿の吉岡里帆が柔術っぽい動きで男性警官を投げ飛ばし、残心をとるシーンが流れます。さらには警察学校の卒業式らしいシーンにて、卒業生代表として宣誓します。
一連のシーンで映画を観る人たちに何を伝えているかというと
「主人公は小柄でかわいらしい女の子だけど射撃の名手で、武術の達人で、とにかく優秀やで!」
(*関西弁に意味はありません)
ということです。このシーンを観た時点で僕は不安しかありませんでした。
なぜかって?
主人公にピンチがあっても結局これらの能力を使って解決する・・という展開がハッキリと見えたからです。そしてその不安は現実のものとなります・・。
そもそも警察学校を卒業したての主人公という設定がいかがなものかと思います。
「数年前まで現役としてバリバリ働いていたが、ある事件をきっかけにして引退してしまった中堅の警察官」とかなら主人公が優秀でも納得がいくのですが、現場に配属されたこともない新米警官になにができるの?って言いたくなるんですが。そんなこと考えるのは僕だけ?
ツッコミ②主人公がとにかくハイスペック
ごめんなさい。ツッコミ①とまったく同じ内容になるわけですがやっぱり主人公が優秀すぎて看過できません。
主人公は視力を失って3年という設定なのですが、視覚以外の能力がすごすぎです。
声を聞いただけで「年齢」「身長」が分かり、また嗅覚を頼りにして「お昼に何を食べたか」を見事に言い当てます。浜中のこの能力のおかげで、「視覚障害者の証言なんてアテにならない」と思っていた警察側も急に協力的になります。
さらに浜中は並外れた記憶力と空間認識能力をもっています。建物の見取り図を聞いただけで瞬時に記憶し、犯人がひそむ館(笑)に潜入したときにはその常人離れした能力を惜しむことなく発揮します。
浜中「おかしい、このあたりに階段があるはず・・・」
春馬「あ、本棚がある。どかしてみよう・・・って上に続く階段がある!よく分かったな!」
浜中「ここまで来る途中、建物の見取り図を教えてもらったから!」
春馬&すべての観客たち「すげぇ!」
ばかやろう(笑)どんだけすごいんだよ。
さらに
不自然なくらい人がいない駅構内(笑)
にて犯人に追い詰められるシーンでは点字ブロックだけを頼りにして転ぶことなく普通にダッシュしたりします。そのすぐ横を盲導犬が並走するという、もはや真面目なのかギャグなのかよく分かりません。
ツッコミ③登場人物たちが基本的にみんなバカ
みんなバカです。
特にバカが際立っていたシーンは、犯人を追い詰めるシーンですかね。
物語終盤にて意外な人物(といってもそれほど驚きはない)が犯人と分かるわけですが、犯人が確定した時点であとは警察にまかせておけばいいものを主人公サイドの人物たちはやたらと事件に関わりたがります。
さらにバカなのは犯人を追い詰める際、なぜかみんな単独行動を取りたがります。自ら進んで犯人に殺されにいくわけです。
警察官A「おまえが・・・犯人だろ?」
犯人「せやで」
警察官A「被害者はどこにいる!?はやく開放しろ!」
犯人「トランクにおるで。はよせな、死んでしまうで」
警察官A「え、ホンマなん?」
犯人「ホンマやで。見てみ」
(がさごそ・・・うしろから犯人近づいて警察官A刺し殺される)
バカすぎる・・・
さらに
警察官B「警察官が正義ってところをみせてやるぜ!」
(応援を待てばいいのに犯人が隠れる館(笑)に一人で潜入し殺される。)
バカすぎる・・・
さらにさらに
春馬「警察官Bが戻ってこない・・・心配だから俺、犯人がいる館に潜入してみる!」
浜中「うちもいくで!」
(わざわざ視覚障害者の主人公を引き連れて犯人がスタンバイしている館(笑)へ潜入し、絶体絶命な状況に陥る)
バカすぎる・・・
バカは主人公サイドだけではありません。
犯人もそれと同じかそれ以上にバカです。
動機がバカ
超優秀な浜中はわずかな情報から、犯人の犯行動機をわりだします
・10年前に起きた猟奇殺人事件を模倣している
・被害者は 「口」、「耳」、「手」、「鼻」がそぎ落とされていて、それには不純な魂を浄化する、という宗教的な意味がある。つまり犯人は儀式を行っている。
・被害者はあと二人でる。それは「目」と「頭」を犯人が狙っているため。
こんなにいい設定をつくっておいたくせに、最後に犯人は
「俺はただ人がころしたかっただけなんだ!」
というまさかの発言をします。それまで儀式的に(あるルールに則って)殺人を行っていたのに、作中のラストではもうその設定を忘れたのか、突然ただの殺人鬼に成り下がります。
犯人はジェイソンをリスペクトしている?
「13日の金曜日」に登場する「ジェインソン」というキャラクターは知っていますか?
ゆっくりと追いかけているくせにいつの間にか被害者たちが逃げる方向へ先回りしているという通称「ジェイソンワープ」を使うジェイソンですが、今作の犯人はこのジェイソンをリスペクトしているとしか思えません。
「走って追いかけろよ」
と、映画を見ながら僕は何回思ったことか。
「ジェイソンワープ」よろしく、犯人も謎のワープを多用します。
玉ねぎ(世界観)
さて、最後に世界観について。
事件に巻き込まれる被害者たちはみんな親から見捨てられた家出少女たち。
その少女たちは風俗で働いていたりします。
事件のもう一人の目撃者:春馬はそういった彼女たちと境遇が似ていて、彼も親から見捨てられています。
なんとく現代日本が抱える問題に焦点を当てているような気がしますが、それほどメッセージ性もなく映画はあっさりと終わります。
犯人は「不純な魂(=風俗で働く少女たち)」を浄化したいという目的があったはずなのに最後の最後で「別に人が殺せればだれでもよかった!」なんて言うから、この世界観も台無しです。
そして料理は完成する・・・
素材
じゃがいも・・・ストーリー
にんじん・・・・キャラクター
玉ねぎ・・・・・世界観
がそろって、さてどんな料理(=映画)ができるのか、とワクワクできるのかというとそうではなくて、映画はそれほど驚きもなく普通に終わります。
イメージとしては「カレー」の箱が用意されて、そのままカレーができちゃうイメージです。(笑)
実は「カレーの箱の中身はシチューでした!」みたいな裏切り(=ドンデン返し)もなく、不味くもおいしくもないカレーを僕たちは食べることになります。
僕がこのような印象をもった最大の要因は「ストーリー以外の設定」がごくありふれたものだったということにあると思います。あともう一ひねりくらいあれば映画の印象がもっとよくなっていただけに、非常に残念です。
まとめ
・ストーリー以外(キャラクター、世界観)が優等生レベルで新鮮味がない。
・登場人物がバカすぎて、笑っていいのか真面目に見ていいのかわからない。
・伏線の張り方が雑すぎて観ている人にバレバレ。例えるなら、猫がうんちをしてその後に砂をかけると思うけど、それくらい雑で、伏線を隠しきれていない。伏線がバレバレだから先の展開が簡単に読めてしまって驚きがない。
あとどうでもいいことだけど
・春馬は将来の夢がない高校生、という設定なわけだけど最後に
「おれ、警察官になれるかな・・・・?」
と言ったシーンでは
作中のバカ警察のどの姿を見て憧れたんだよとツッコミを入れたくなった。
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